札幌市立大学 SAPPORO CITY UNIVERSITY

SPECIAL CROSS TALK

札幌発の未来創造

  • 札幌市立大学  中島 秀之  理事長・学長
  • クリプトン・フューチャー・メディア株式会社  伊藤 博之  代表取締役

札幌市立大学が見据える新たなソリューションとは?
デザイン・看護の可能性をより深くより大きく

  • 対談日:2018年8月6日
  • 対談場所:札幌市立大学 芸術の森キャンパス

地域社会の問題解決や、次世代の社会を創造していく若者たちの支援のために、大学と企業はどのようなことができるのか。本学の中島秀之理事長・学長が、クリプトン・フューチャー・メディア(株)の伊藤博之社長を招いて語り合いました。

人をワクワクさせる技術が社会を変え、未来を創る

中島秀之(以下、中島)私は今年4月に札幌市立大学の理事長・学長に就任しました。本学が開学した時に、はこだて未来大学の学長をしており、開学式典に招かれたというご縁があります。この春まで東京大学の大学院で教えていましたが、過密都市・東京を脱出できるということで(笑)、喜んで札幌に来たわけです。

伊藤博之(以下、伊藤)AI(人工知能)の専門家の中島先生が来られて、札幌のAI研究が新しい刺激を受けていくことになると、私もうれしく思っています。

中島これまで本学は「デザイン×看護」(※1)という2つの学部の連携で地域の問題を考えてきました。これからはIT(情報技術)やAIによってそれを下支えするような取り組みを、本格的に始動したいですね。それが社会的なイノベーションにつながると思います。伊藤社長は起業家として、イノベーションを起こしてきましたね。

伊藤私は1995年に起業して、2007年にリリースした「初音ミク」で知られるようになりました。起業した当時はインターネットがようやく広まり始めたころです。会社をつくる前には北海道大学に勤めていたのですが、大学は比較的早くインターネットが整備されて、学内では普通に使えるようになっていました。特に先生方はそれを使って情報をやり取りしていて、それを見て「これはすごい時代が来る」と思いました。というのは私もともと趣味で音楽をやっていまして、海外の方とコラボレーションすることもあったのですが、フロッピーディスクや手紙を送ると往復するのに2カ月もかかるわけです。そうすると着想を忘れてしまうこともありました。ところがインターネットだと瞬時に送れるわけです。


illustration by KEI c Crypton Future Media, INC. www.piapro.net

中島インターネットの登場は、非常に大きな革新でしたね。

伊藤はい。地球の裏側とも情報を瞬時に繋げることができるインターネットの可能性に非常にワクワクして、これはもういてもたってもいられないということで、会社をつくったわけです。

中島現在は、インターネットを活用する人々の可能性を、さらに広げるサービスを提供されています。

伊藤今は誰でもパソコンやスマホで自分の作品を公開できる時代で、ユーザーは誰もがクリエイターです。そんな中で、私たちの会社がどんなことをするかと考えたときに、クリエイターが必要なものをクリエイトするための製品やサービスを提供するクリエイター、「メタクリエイター」であろうと考え、それを会社のミッションとしています。クリエイターというのは音楽をつくったり、絵を描いたりすることだけではなく、おいしい食品をつくる、観光地をつくる、魅力的な街をつくる、そういったこともクリエイターの仕事だと思います。そういった、地域に、北海道に対するクリエイト活動を喚起していくことをやりたいと考えています。

中島伊藤社長はNo Maps(※2)というイベントの仕掛け人でもありますね。「地図がない」という言葉自体、とても刺激的です。

伊藤映画「マトリックス」の世界観を生んだSF作家、ウィリアム・ギブスンを追ったドキュメンタリー作品のタイトル「No Maps」が由来で、地図なき領域を開拓したいという願いから付けました。このイベントでは、若い人々の創造力をまちづくり・産業づくりにつないで、新しい社会をつくりたいと思っています。

中島昨年、No Mapsに参加した本学の大学院生が、経済産業省北海道経済局が主催する“No Maps NEDO Dream Pitch”with 北海道起業家万博において、NEDO TCP賞を受賞しました。テーマは「全ての人が雪道をスイスイ移動できるスマートモビリティ」でした。

伊藤快挙でしたね。アート作品だけではなく、快適で魅力的な生活を創造するのもクリエイターの仕事です。産官学がしっかり連携して、地元の産業にクリエイティビティを喚起し始めたと感じています。

学生に期待するのは次の社会モデルの構想力

中島AIで「デザイン×看護」というと、例えば介護は重労働なので、外骨格のようなロボットを人の体に付けてサポートするというシステムも考えられてきています。それから、ロボットという形以外にも、看護される人たちの話し相手になるとか、夜間にAIが患者さんの変化をリアルタイムでチェックするといったソリューションも考えられます。AIも含めて技術というのは、使い方がすごく大事だと思うんですね。世の役に立つ使い方もあれば、役に立たない使い方もある。それどころか、困るようなことになる使い方も出てくる可能性があります。全ての技術はもろ刃の刃で、例えば包丁の例が分かりやすいですが、料理もできれば人も傷つけることもできるわけです。そういった、使い方を含めた意味でのデザイン、造形だけではなく仕組みのデザインを看護と掛け合わせて問題を解決していくことが、今後ますます重要になってきます。

伊藤私もデザインの本質は問題解決だと思います。何かを格好よく見せるのがデザインと思われがちですが、いかに問題の本質を見つけ出して、それを顕在化して解決するか、そのアプローチ・やり方を含めてデザインだと思うんですね。ただ、一連のITの理解があるとないとでは、問題を解決するための設計図の描き方が大きく変わってきます。今やITリテラシーは、特別なエンジニアだけのものではなくなりました。

中島全ての分野でITの理解が必要だと考えるのが、世界的な流れです。本学でそうした素養を身につけ、地域に出ていくことを強化したいと思います。その機会としても、看護の現場はすごくいいんですね。だから、デザインと看護の学生が一緒に、クリプトン・フューチャー・メディアのような企業の皆さんと連携していけたら、実に面白いことができます。

伊藤大学で学んだ問題解決のアイデアを、No Mapsという場で試すこともできます。そこで社会に役立った実感があれば、また学びにフィードバックされます。さらに、企業が学生たちと新規事業を一緒にやっていく、あるいは学生たちが起業することもあり得ます。

中島札幌市と米ポートランド市の姉妹都市提携が2019年に60周年を迎えるということで、札幌市の副市長と一緒に訪問した際に知ったのですが、ポートランド州立大学には、「知恵でオレゴン州に貢献しよう」というスローガンがあって、卒業までに社会貢献の単位をいくつか取ることが必修となっているそうです 。そういった、地域により密着した動きも参考にしたいと思っています。私は看護でもデザインでも、次の社会モデルの構想力を付けてほしいと願っています。今ある社会の仕組みを改善するだけでなく、ITの力でもっと大きなことができる時代です。伊藤さんが初音ミクなどで実現されたように、ITは社会を変革しました。今度はAIによって、ビジネスも制度も大きく変わります。それを見据えて、未来を考える学生になってほしいですね。

地域の問題解決こそグローバルへの道

中島米マサチューセッツ工科大学の初代学長が、「地域の問題も解決できない大学が、世界一になれるわけがない」と言ったという話を聞いたことがあります。本学ではこれまでも地域の問題解決に協力してきましたが、私も世界に出ていくことと地域に貢献することは、実は同じことだと思っています。

伊藤ローカルとグローバルの二極化が進み、観光や食などで地元の価値を発掘すれば、ビジネスチャンスがたくさんあります。特に北海道は、海産物、農作物、景観など魅力的な素材が多いですが、「おいしいもの、いいものがたくさんあるよ。どうぞ、どうぞ」という感じでそのまま提供されていることが多く、十分な付加価値が与えられていません。ただ、付加価値がつけられてないということは、むしろ今後、まだ価値を高められる余地があるということ、期待値がとても高いということとイコールだと思います。そして、その付加価値を与えるのは、デザインです。北海道にはデザインの力が、ものすごく必要です。世界中からインターネットで情報を見て北海道に人が来ます。だから情報発信力を磨けば、直接グローバルマーケットにつながります。ローカルとグローバルの両面教育が大切で、札幌市立大学はそれができます。ぜひ、北海道の価値を高めていく人材を育成していただきたいと思います。

中島ありがとうございます。これからの時代、デザインもそうですが、高齢化社会で看護の重要性も増してきます。そこで今年を「デザイン×看護」が本格始動する年にしたいと思っています。あらゆる面で変化が早いこの時代、クリプトン・フューチャー・メディアのような小回りの利く集団がどんどん時代の先を走っています。大学も同じで、小規模な公立大学は意思決定が素早く小回りが利きます。東京の大学に入ったり、東京の企業に就職したりしなくても、地元にいた方が良い学びを受けられる、活躍できるという世の中になってきています。そう考えた時に、20年後、30年後にどういう人材が活躍しているのかというと、本学などの公立大の卒業生だろうと思います。これからの時代を創造していく学生を育てる場所が、ここ札幌にあるということを、ぜひ多くの人に知っていただきたいですね。

  • ※1 「デザイン×看護」
    札幌市立大学では、デザイン学部(D)と看護学部(N)の2つの学部が連携・共同して「教育・研究・地域貢献」を行う「D×N(ディーバイエヌ)」という取り組みを行っています。
  • ※2 「No Maps」
    札幌・北海道のクリエイティブな発想や技術によって次の社会を創ろうとするコンベンション。「映画」「音楽」「IT」などの多彩な展示やイベントが、札幌駅前通地下広場ほか市内各所で開催されます。

〈お話を聞いた方〉
伊藤 博之
北海学園大学卒業後、「初音ミク」の開発で知られるクリプトン・フューチャー・メディア(株)を設立。
No Maps実行委員長。