札幌市立大学 SAPPORO CITY UNIVERSITY

研究紹介

AIを使って、雪や氷の状態を解析する

極地で氷の状態を計測

学生時代に北極や南極に行ったことがあるそうですね。

星野 大学院では寒冷地・環境・エネルギー工学を専攻しており、極地の海氷の状態に興味を持っていました。ニュース番組などでは、海氷の平面的な面積については語られますが、海氷の厚みまで語られることはあまりありません。そこで私は、「衛星リモートセンシング」を用いてより深く海氷をモニタリングするために、在学中の2013年に南極、2014年に北極を訪れました。地球温暖化や気候変動に影響を与える海氷変動に関する論文で、博士号を取得しています。

その後は、JAXAで雪氷の分析に深く関わっていくんですね。

星野 2018年からはJAXA(宇宙航空研究開発機構)の研究開発員として「滑走路埋没型雪氷モニタリングセンサ」の開発に従事しました。これはAIで雪氷の状態を分析し、滑走路の除雪判断を補助するシステムの研究でした。これまで雪氷の状態は平面的な観測・解析が主で、厚みや雪質(乾いているか、湿っているかなど)までは分かりませんでした。そのため、空港では雪が降ると職員が滑走路まで出向き、目視や自動車を走らせて路面状態を調べるなどアナログな方法で確認し、除雪の判断をしていました。日本は世界トップレベルの豪雪地帯の上、雪質は非常に滑りやすいため、航空機の遅延や欠航、オーバーランなどの事故も珍しくありません。空港は安全対策のため頻繁に除雪を行いますが、その頻度やタイミングが適切か、効率的であるかは考える余地があるでしょう。AIが雪氷の状態から除雪の必要性をより正確に判断できるようになれば、航空機運行の安全性・効率性の向上につながると考えています。

光の散乱から雪氷の状態を解析

現在の研究内容について教えてください。

星野 滑走路脇に設置したセンサーを使って、雪氷の光の反射を画像として記録します。その画像を、AIを使って分析することで、滑走路の雪氷の状態をリアルタイムでモニタリングするシステムをJAXAと共同で開発しています。雪は氷の粒子から構成されており、小さな粒がたくさん集まることで光が多重散乱され、白く見えます。一方、水や氷膜などは光を透過するため透明に見えます。この、散乱や透過といった光の変化をとらえた画像を解析することで、雪氷の種類や厚みを判断することができます。たとえばさらさらの雪、湿った雪、シャーベット状の氷などとAIが解析します。これまでは人間の目視や感覚で判断していましたが、数多くのサンプルを元にしたAIによる解析システムが開発できれば、より細かく、かつ正確な雪氷状態を把握することが出来ます。


滑走路の雪氷の状態をリアルタイムでモニタリングするシステム

AIはどのように分析しているのでしょうか。

星野 JAXA在籍時は、大量の光散乱画像から規則性や関連性といった特徴を人間が見つけ出して定式化し、それをベースにAIに分類させる「機械学習」という手法で精度を高めてきましたが、さまざまな状況に対応した特徴を見つけるには限界がありました。AITセンターでは、AIによる「深層学習」という手法を用いています。これは“ニューラルネットワーク”という人間の脳の仕組みをモデルにした手法です。AI自らが膨大な画像データを読み込んで、人間には分からないレベルの雪氷の特徴までも見つけ出します。


氷雪の種類ごとに光の散乱パターンを撮影したもの。例えば2は「サラサラした雪の路面」、3は「湿った雪の路面」など、これらのパターンをAIが学習することで路面状態の識別が可能になる

道路や峠などへの応用も視野に

バラ色の技術のように感じますが、課題は何でしょうか。

星野 深層学習には、膨大なデータが必要になることです。囲碁や将棋の研究でAIが活用されていることはよく知られていますが、あれはAIが過去の膨大な棋譜のデータを読み込んで、次の一手を解析しています。それと同様に、正しい判断のためには雪氷の膨大なデータが必要なのです。そこで昨シーズンは湿った雪が多い福井空港、乾いた雪が多い新千歳空港でデータを収集しました。さまざまな波長の光をカメラで記録し、雪氷の種類によって異なる光散乱パターンを調べました。撮影された写真は、画像認識の分野において利用される「畳み込みニューラルネットワーク(CNN)」という手法により分析しました。データ数自体はまだ少ないのですが、すでに学習されたモデルも利用することで高精度な分析結果を導けました。これを繰り返すことで解析の精度がより向上し、空港における滑走路の状態に適用可能なアルゴリズムを開発することが今後の目標です。

今まさに開発が進む技術ですが、どのような活用が期待されますか。

星野 今後は、たとえば道路の積雪の解析などにも活用できるかもしれません。高速道路や峠など、モニターで道路の状況を監視している場所はすでに多数あると思います。雪が降った時の画像をAIが解析し、必要なら除雪車を出動させる、あるいは通行止めにするといった情報を出すことが考えられます。現在は人間の判断に頼っていることを、AIによってより精度を高めたり、コストを軽減したりすることが期待できます。

AITセンター 助教 星野 聖太

北見工業大学大学院にて博士号(工学)取得。JAXA(宇宙航空研究開発機構)航空技術部門招聘職員を経て、2022年より現職。

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