札幌市立大学 SAPPORO CITY UNIVERSITY

研究紹介


地域の力を引き出し子どもの貧困対策を

子どもの貧困対策が将来の疾病予防に

健康は個人の責任ばかりではなく、その人が置かれた社会的な環境に強く影響されます。そうした環境による健康状態の違いを「健康格差」といっています。中でも貧困は健康格差の大きな要因の一つとなっています。私は地方自治体で保健師として勤務した経験から、「保健師は、子どもの貧困による健康影響を縮小するために何ができるのか」を研究テーマにしてきました。

日本は先進国の中でも子どもの貧困率が高く、およそ7人に1人の子どもが貧困です。ひとり親世帯に限ると、5割にも上ります。こうした子どもたちは、虫歯が多い、有料の予防接種を控える、受診率が低いため病気が悪化しての入院が多い、親に余裕がないためネグレクト状態になりやすいなど、さまざまな問題が指摘されています。また、「あたり前の生活」経験が少ないため、家族以外の人間関係で引け目を感じ自己肯定感が低くなりがちです。

子ども時代の貧困は、将来の健康にも影響します。たとえ成人後に経済状態が改善したとしても、高血圧などの慢性疾患が多く、死亡率が高い傾向が報告されており、早い時期の子どもの貧困対策が、将来の疾病予防につながると考えられるようになっています。

こうした状況の中、地域の健康づくりを担う保健師は、何ができるのか?私の研究の一端をご紹介します。まず、年収と育児ストレスとの関係ですが、年収が低い世帯の母親はそうではない母親に比べ、「社会的孤立」と「退院後の気落ち」が大きなストレスとなっています。これはその後の育児で、ネグレクトにもつながりかねません。妊娠期からすべての母と子の情報を把握できる保健師が、支援のなかで果たす役割は大きいと言えます。

子どもを育む地域をつくる

もう一つの研究が、保健師たちは子どもの貧困に対し、どのような取り組みをし、その活動にどのような課題を抱えているのかをあきらかにすることです。貧困対策に積極的に取り組んでいる全国の中堅保健師23人にインタビュー調査をしました。わかったことは、保健師は、「貧困だけの問題では支援せず、そこに重大な健康リスクがあると判断したときに介入を開始」していました。

使える制度がなく、十分な支援ができなくても、地域のインフォーマルな人間関係を活かして、支援をしている保健師もいます。地域の人材につなぎ、親子を見守ってもらう、社会的孤立を緩和するため地域の集まりやイベントなどに誘ってもらい他者と関わる機会をつくることなどです。

また、個別の支援に留まらず、地域づくりを目指す保健師たちもいます。地域で孤立しがちな世帯を見つけ声かけをする人材の育成、子どもたちが「あたり前の生活」を知り体験できる場、地域の大人たちが子どもにロールモデルを見せる場をつくるなどです。貧困世帯の親が子どものロールモデルになりにくいのならば、地域の大人がその代わりになればいいという考え方です。こうした地域づくりを実践している保健師は、まだ少なく、試行錯誤の段階といえます。

「健康格差」が言われるようになって、10年以上が経ちました。子どもの貧困による健康影響を少なくする支援は、公的サービスだけでできるものではなく、地域のさまざまな人間関係の中で育まれるものです。保健師は、公的なものと地域独自の資源をつなぐ活動ができる職種です。そうした活動が貧困による子どもへの健康影響を小さくし、将来の「健康格差」の縮小に貢献できると考えています。

看護学部 地域看護学領域 教授 喜多 歳子

北海道大学大学院にて医学博士(公衆衛生学)を取得。
自治体保健師、旭川大学 助教、北海道情報大学 教授を経て、2017年より現職。

研究紹介一覧へ