札幌市立大学 SAPPORO CITY UNIVERSITY

研究紹介

ボトムアップで社会を変える

話し手:小林 重人
(デザイン学部 人間空間デザインコース 准教授)
聞き手:須之内 元洋
(デザイン学部 人間空間デザインコース 講師)

小林先生がなさって来たプロジェクトや興味、関心などを教えてください。

小林 私はコンピュータによるシミュレーションの研究をしていました。人工市場シミュレーションと言われるもので、たとえば株式市場をプログラムで人工的に作り、そこに取引人を入れて売買させ、どういう振る舞いや現象が起きるかをシミュレーションするのです。そこに新しいルールを設定すると、市場の動きがどう変わるかを調べていました。

一見、複雑な社会現象を理解しやすくするわけですね?

小林 はい。過去の歴史からアプローチする方法もありますが、それとは違い、実験的、仮説的に理解する方法です。でも、そこで見出した新しいルールを日本や海外の株式市場の関係者に提言しても、受け入れられなかったんですね(笑)。彼らは「現実の市場メカニズムは複雑で膨大なルールから成り立っていて、1つだけを変えるのは難しい」と。そこから、地域の人たちと一緒に何かをする方向にシフトしていきました。

どんな地域プロジェクトをしてきたのでしょうか。

小林 イタリアのトリノ大学で半年勉強した後、北陸先端科学技術大学の助教になり、石川県などで地域通貨をどうやって流通させるかを、多角的にデザインする試みをしました。

やはりシミュレーションを使って?

小林 はい。地域通貨がどのように自律的に流通していくか、コンピュータシミュレーションしてみることで(モデリングと言います)、人の動きが見えてきます。次にゲーミングシミュレーションと言いますが、プログラムで疑似的な社会を作り、地域の人たちに取引=ゲームをしてもらったんです。法定通貨(円)と地域通貨の両方使ってもらい、その後ゲーム参加者とワークショップをしました。

シミュレーションとワークショップを組み合わせるのは、とても面白いですね。

小林 ゲームそのものも面白いのですが、ゲームの後で「実際に人がどう動いて、どう感じ(価値観)が変わったか」を示しました。「地域のために…」と言っていた人が、ゲームでは円を集めるのに熱心だったりする(笑)。高齢者と中学生でも、変化の仕方が全く違う。こうして参加者に、自分の行動を振り返ってもらったんです。自分を映す鏡にもなりますね。この一連の取り組みを通じて、地域通貨を導入する目標を共通化できました。地域通貨をデザインするのに役立ったんです。

地域通貨だけではなく、地域のための議論の場、仕組みづくりにつながりますね。たとえば中高生の政治参加のプログラムや、公共の施設をどう作るかなどの政策をボトムアップで構築することにも使えそうです。こういう研究は、どんな名前で呼ばれているのでしょうか。

小林 社会シミュレーション研究と呼ばれています。この手法は応用範囲が広いのはもちろんですが、複雑な社会現象を理解したり、社会の仕組みを人々の行動から変えたりしていくことに貢献できます。当初目指した株式市場のルールを変えるというような「上から」ではなく、まさしく「ボトムアップ」で社会を変えることにつながります。

ありがとうございました。

デザイン学部 人間空間デザインコース 准教授 小林 重人

北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科にて博士号取得。
トリノ大学経済学部 客員研究員、北陸先端科学技術大学院大学 講師を経て、2019年より現職。

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