札幌市立大学 SAPPORO CITY UNIVERSITY

研究紹介

人口移動と家族から社会の変化を読み解く

経済発展がもたらした人口移動の波

先生の研究テーマは「人口移動と家族の変化」ですが、まず戦前、戦後の日本の人口移動について教えて下さい。

丸山 近代以前は農業中心の社会だったため、子どもは労働力でした。たくさん産んでいましたが、乳幼児死亡率が高く、成人するのはそのうち半分といった多産多死社会でした。近代になると公衆衛生意識の高まりや医療の発達、普及により、乳幼児死亡率が下がって多産少死社会になります。多産少死社会では、出産数が多いまま、そのほとんどが育ちあがるために世代の人口規模が大きくなる特徴があります。日本では1930年代から1940年代にかけて毎年200万人以上の子どもが生まれ、その人たちが働き手となった1960年頃から、日本は高度経済成長期に入ります。京浜・京葉などの工業地帯が生まれ、労働需要が劇的に増えた東京・大阪・名古屋などの大都市圏へ、地方圏から多くの人が働きに出ました。

それが核家族化の背景ですね?

丸山 はい。多産少死世代は平均して4~5人のきょうだいがおり、地方圏ではたいてい後継ぎである長男の夫婦が親と同居・近居しました。親と同居できない次男・三男などは就職や進学で大都市圏へ転出しましたが、老親の面倒を見る長男夫婦が残っているので、地方圏でも地域人口を維持できたのです。一方、東京を始めとする大都市圏に転出した人たちはそこで結婚し、家族を形成しました。そうした家族を受け入れるために多摩ニュータウンのような郊外住宅地が形成され、都市圏の拡大につながっています。郊外住宅地では夫婦と子ども2人という小規模核家族世帯が多く形成されました。日本の場合、大家族が分解した結果の核家族化ではなく、きょうだい数が多く親と同居できない地方圏出身者が中心となって、大都市圏に転入して定住し、家族を作ったことで核家族世帯が大幅に増加して核家族化が進行したのです。なお、工業化によって子どもは労働力ではなく養育の対象となるため、少ない子どもにお金と愛情を注ぐべく、少産動機が生まれます。多産少死社会から少産少死社会への転換であり、核家族化と同時に進行しました。こうして終身雇用と年功序列のもとで働くサラリーマンの夫と専業主婦の妻、子ども2人で構成された家族を皆が形成するようになり、マジョリティであるからこそ「標準家族」となり、こうした家族をベースに年金や健康保険など、今に続く社会制度が整備されていきました。

巨大化していった東京圏

人口が東京圏に集中している理由は何でしょうか?

丸山 一つはよく言われるように、若者が就職や大学進学のために上京するからです。高度経済成長期の工業化に続き、1980年代になると金融などのサービス産業化が進行し、大都市圏にはますます企業が集中し、人の移動が続いています。他方で、先ほど述べたように地方圏から転入した親世代のもと、東京圏の郊外住宅地で生まれ育った子どもたちが、東京圏内で進学・就職し、結婚します。東京圏生まれの2世が東京圏内で家庭を持ち、3世が生まれるわけです。こうした人口の再生産が繰り返されてきたことも、東京圏の人口増加の要因です。

地方圏が置かれている状況はどうでしょう?

丸山 少産少死社会になって以降、地方圏でも子ども1、2人の世帯が多くなりました。大学も仕事も地方圏には少なく、大都市圏に多い。そうなると地方圏生まれの子どもたちは、長男を始めとして、かつてであれば後継ぎとして地域に残っていた人であっても、上京するケースが増えてきます。その結果、地域人口の再生産が叶わなくなり、過疎化に象徴されるような、地域の維持ができなくなるほどの大きな問題が生じているのです。Uターン、Iターンが言われ、地方自治体は移住促進に予算をつけていますが、この社会構造が変わらない限り、「地方の衰退」は避けられないというのが、人口移動と家族のありようの変化から見て取れます。札幌に一極集中して地方の人口減少が続く北海道は、日本の縮図と言えるでしょう。

社会をデザインする基礎としての人口・家族

日本の家族のありようは、どう変化しているのでしょう?

丸山 「核家族化」という言葉が家族の変化を表すものとして使われ続けていますが、核家族化は一定の進行を終えたと考えられ、現在は単身化、多様化が進んでいます。若者から高齢者までの一人暮らし、生涯未婚、ひとり親家庭、ステップファミリー、離家後の親との再同居など、様々な家族の形ができていますね。これはかつての核家族化を牽引した標準家族たる小規模核家族世帯のように、皆が同じ家族の形を志向するという画一的な家族形成ではなく、多様化した価値観に応じた家族形成ができるようになったことの表れでもあります。しかし、その一方で必ずしも理想とする家族を形成した結果とは言い切れません。終身雇用・年功序列が崩壊し、非正規労働が増えて雇用が不安定になったので、経済面の不安から結婚したくてもできない人、子どもが欲しくても持てない人なども増えています。様々な制約によって特定のライフコースしか選べない人が増えた結果の多様化とも言えるのです。並行して高齢化も進行し続けており、今や日本は少産多死社会になりつつあります。

家族の変化によって、問題も生じていますね。

丸山 先ほどお話した社会保障などの制度は、旧来の標準家族をベースに考えられたものから転換しきれていません。「家族の面倒は家族で見る」という規範も根強く残っており、ヤングケアラーと言われる若年の子が親のセーフティーネットになっているケースや、老親扶養のために介護離職するケースが散見されます。介護保険制度のように現実に対応した制度もできましたが、社会の変化に制度の変化が追いつかず、そのギャップのはざまで、苦しむ人たちがたくさんいるのが現実です。

研究の成果が政策立案に生かされることもあるのでしょうか?

丸山 EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング=データに基づく政策立案)という言葉があります。しかし、単純に客観的資料として統計データを使うだけではダメ。客観的な資料を主観的に解釈したのでは、思い込みや願望によって政策形成をしていることと変わりなく、その結果として、現実から乖離したフィクションのストーリーが創り出されるようなことは避けなければなりません。いかに事象を詳細かつ客観的に解釈し、問題の本質を捉えることが、政策形成において重要です。私の研究は人口・家族変動から現代社会の問題を把握すること。このプロセスを踏むことによって、どのような制度設計がよりよいのかを考えられる、いわば社会をデザインするための基礎となる研究の一つだと考えています。

デザイン学部 准教授 丸山 洋平

慶應義塾大学大学院にて修士(政策・メディア)、博士(学術)を取得。その後、新宿区新宿自治創造研究所、年金シニアプラン総合研究機構、福井県立大学地域経済研究所等を経て、2018年より現職。

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