札幌市立大学 SAPPORO CITY UNIVERSITY

研究紹介

超高齢社会における口腔ケアの重要性

看護の現場での口腔ケアとは

私は肺炎の看護のexpertになろうと思って大学病院の呼吸器内科に勤務しました。たくさんの肺炎の患者に出会いました。人工呼吸器の装着した患者や自分でセルフケアができない患者は、私たち看護師がすべてのケアをします。安楽で、爽快感のある、生きたいを支えるケアをしたいと思い看護を学びました。北大病院では、当時、口腔ケアは、最低4時間毎に実施、入浴は、アンビュウを押しながら実施したこともあります。重症患者が、言葉で伝えることができなくても体で表現しているそのわずかの表現に一喜一憂し、ケアを学ばせてもらいました。
慢性期の病院に勤務していたとき、終末期の患者で「おばあちゃんの口が臭い」というお孫さんの言葉に悲しんでいる方がいました。義歯をかけるための歯が唇に刺さり、褥瘡(じょくそう)になっていたのです。当時、歯科治療を受けられるのはクリニックへ通院できる人だけ。入院中の病院や介護施設での歯科治療は難しかったのです。

それならまず自分で口腔ケアを学ぼうと、北大歯学部附属病院に看護師として勤めました。病院での業務の他に、「地域支援医療部」が創設され、要介護高齢者や難病、障害者の歯科治療と口腔ケアについて実施することになり、兼務することになりました。札幌市や札幌歯科医師会、訪問看護ステーションと協働し、院内は歯科医師、看護師、歯科衛生士、栄養士、歯科技工士など多職種連携のチームで歯科治療・口腔ケアを提供する体制を全国に先駆けて作りました。

もうひとつ私にとって大きな出来事だったのは、2001年、医師だった弟が40歳でがんで亡くなったことです。当時、北大病院では、薬剤師から、情報提供され、がん患者への口腔乾燥への対応が始まっていました。化学療法や放射線療法により口の中に粘膜炎ができると、痛くて食事がとれなくなるためです。この時に、北海道は、広域なので、ケアの地域格差を実感しました。

口腔ケアの実践、AI利用にも取り組む

高齢者やがん患者の口腔ケアについて学ぶため、北大大学院の歯学研究科に進学しました。米国や北欧を視察して、口腔ケアの知識と技術が、市民に教育されており、がん患者については、口の中の状態を評価する口腔アセスメントOral Assessment Guide(OAG)を患者自身が評価し、医療者と共有していることを知りました。がんかもしれないという状況になったらすぐに歯科クリニックに受診し、虫歯や歯周病、入れ歯の不具合などで疾病治療中のリスクを下げるために適切な歯科治療や口腔ケアが教育が実施されていました。口内細菌による粘膜炎への感染や誤嚥性肺炎を予防でき、食事も中断せず、本治療も継続できれば、在院日数も短くてすみます。患者が食べていることを見ることが家族に安心感を与えます。

そこで、OAGを日本に導入したいと考えて、OAGの開発者であるEilersから開発過程や使用方法を学ぶために米国、ネブラスカ医療センターに行きました。OAGの作成過程や使用方法を教えてもらいました。日本で使用することの許可をいただき、その後、OAGに写真を入れるときも相談させていただき、日本で使用できるようにしました。日本に来ていただき、記念講演もしました。

私が今、取り組んでいるのは「人工知能(AI)を利用した高齢者の口腔アセスメントのスクリーニング構築の基礎研究」です。患者の口の中を撮影するとAIが画像でスクリーニングできるシステムです。数年前から構想を練り、研究をしているところです。実用化すれば介護施設や病院、在宅療養者などに幅広く活用できるはずです。

看護は、ケアを通して自分が成長できる学問

口腔ケアの技術を修得する口腔ケアのシミュレーションモデルの開発も進めています。デザイン学部の先生と協働で圧力センサーつきの口腔模型をつくり、歯ブラシやスポンジブラシの軌跡をパソコン画面で見られるようにして、看護学生や介護士、患者、家族の技術の修得を支援します。いずれ市民を対象にした口腔ケアの啓発にも使えるでしょう。

他にもデザイン学部と連携した研究として、療養の場で使用されている共用車いすのひじ掛けで皮膚損傷を起こすという、欧米でも共通の問題に取り組んだものがあります。ひじ掛け部分にタオルや段ボールなどを巻いてある現状を見て、安全と清潔、生活を豊かにする視点で「ひじ掛けクッション」の研究・開発を行いました。口腔ケア以外にも、より多くの人の健康に寄与する研究に積極的に関わっていくことができればと考えています。

看護はケアを通して自分を成長させることができる学問です。患者さんとの関わりを通して自分も人間として成長していくには、一生学び続ける姿勢が欠かせません。近代看護の祖ナイチンゲールは、「著述家」「看護の発見者」「教育者」「優れた管理者」「衛生改革者」「病院建築家」「統計学者」「ソーシャルワーカー」と、8つの顔を持っていたといわれます。私自身、看護で悩むとロンドンのナイチンゲール博物館に伺います。そしてナイチンゲールと対話をします。私は8つのうちのいくつを実践できているのだろうかと常に自問しながら、学び続けたいと思っています。

札幌市立大学で学ぶことの利点

本学はデザイン学部やAIラボもあり、看護の教育・研究・社会貢献活動の幅が広がっています。私は、病院や医療チームの中での多職種連携を実践してきましたが、本学では、デザインやAIなども含めた多職種協働が可能です。本学であなたの可能性を見つけてください。

看護学部 老年看護学領域 准教授 村松 真澄

北海道大学医学部附属看護学校を卒業後、看護師として働きながら北海学園大学法学部、同大学大学院で学び、北海道大学大学院にて博士号(歯学)取得。北海道大学病院勤務を経て2007年より本学講師、2012年より現職。

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