札幌市立大学 SAPPORO CITY UNIVERSITY

研究紹介


「うれしい体験」で教育の質の向上を目指す

看護とデザインの大学院で学ぶ

私は看護専門学校で学び、看護師資格を得た後、大学病院で働きました。その後、保健師の資格を取り、産業保健師になりました。看護師、保健師として合計8年ほどの経験を積んだ後、カナダのバンクーバーで4年間、英語を学びました。バンクーバーでは、語学学校でカウンセラーもしていました。

帰国後、産業保健師に戻りましたが、ご縁があって看護専門学校の教員になりました。10年間の教員生活の中で、看護師養成教育をもっと深く学びたいと思うようになりました。そこで本学の大学院に入学し、看護教育学を学びました。卒業後、今度はデザインの大学院に入学し、今もデザインを学んでいます。

変化に富んだ(?)私のキャリアを書きましたが、この経験が現在の「看護師養成所の教員が、自分らしさの中でキャリア形成を行うための、支援につながる研究」に取り組む背景になっています。

看護師養成所での「看護研究」を推進するために

高校を卒業後、看護師になるための教育機関には、大学、短期大学、看護師養成所などがあります。どの教育機関でも、看護基礎教育課程を修了して国家試験に合格すれば、看護師の資格が得られます。

看護基礎教育過程で重要なのは、「どうして?」「なぜ?」という疑問を持ち、課題を見出す能力や科学的根拠を持って課題解決を試みるプロセスを通じて、看護師に求められる思考の素地を育てることです。科学的根拠とは、研究成果のことですが、大学では、それぞれの教員が研究に取り組んでいますし、研究成果が身近なものとして授業で活用されています。しかし、専門学校は、そもそも研究機関ではないため、研究成果を活用し、このような力を育てるための教育環境(授業時間としても図書などの設備としても)が、大学のように整っているとは言い難いのです。

「人間中心設計」を看護教育に活かす

どうしたら専門学校の先生方が、限られた教育環境でも学生たちに「課題を見出す力」や「研究成果を活用するための基礎的な力」をつける教育ができるのか。その支援に活用できるのが、「人間中心設計」というデザインのコンセプトだと考えています。
「授業設計」とか「授業の組織化」という言葉があります。それは、簡単に言うと授業の準備や、授業の目的を達成するために内容や方法を組み合わせていくことで、非常にシステマティックな営みです。本学でデザインを学ぶようになり、デザイン的な視点なくして教育は成り立たないと思えるようになりました。私は、専門学校の先生方の学習や自己研鑽を支援したいと考えているので、そのためにデザインの方法論を用いることは自然なことだと考えています。

人間中心設計とは、その言葉通り、人を中心に据えてモノ・コトのデザインをすることです。本来は、コンピューターを利用したインタラクティブシステム(人とコンピューターによる双方向のやり取りを行う製品やサービスなど)をより使いやすくすることで、「思ったようにうまく行かない」とか「使いにくい」などの経験を「うれしい体験」に変えることを目指すアプローチです。この考え方を用いながら支援方法を考えていくことで、たとえば専門学校の授業で研究成果を活用することなども、先生方にとって、「意外と簡単で、やってみたら面白い!」という体験に変えていけると思っています。そうした研究を専門学校の先生方と協力してやっています。

先生の支援が学生の支援につながる

このアプローチを看護教育に活用したいと考える理由は、先生方の「うれしい体験」は教育の質の向上にも影響すると考えるからです。教員は教育者であり、看護師の先輩でもあります。ですから学生にとって、もっとも身近な職業上のロールモデルになります。もし、ロールモデルが「研究なんて」と否定的な価値観をもっていると、学生も研究に価値を見いだしにくくなります。

教員は経験を含めた自分自身を活用しながら教育を行うので、教員の在り様は教育と切り離せません。同じように、看護師も自分自身を看護の道具として活用するため、看護師としての在り様が看護に影響します。そのため、看護師が患者さんを大切にする看護を実践するためには、看護師自身も大切にされる必要があります。学生を大切に教育するには、教員も大切にしていく必要があります。つまり、先生方を大事に支援していくことは、学生を大切に支援していくことにつながると考えています。

看護学部 精神看護学領域 助教 渋谷 友紀

北海道立衛生学院保健婦科を卒業後、札幌市内で産業保健師としての勤務、道内の看護師養成所で専任教員としての勤務を経て、2017年より現職。

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