札幌市立大学 SAPPORO CITY UNIVERSITY

研究紹介

体が動けば心が動く

話し手:若林 尚樹
(デザイン学部 人間情報デザインコース 教授)
聞き手:須之内 元洋
(デザイン学部 人間空間デザインコース 講師)

若林先生がデザインを意識するようになったプロセスを教えてください。

若林 ぼくは金沢美術工芸大学で工業デザインを専攻したのですが、当時、戦後日本のインダストリアルデザインを代表する柳宗理先生など、熱い人たちがたくさん教えていました。卒業後は、筑波大学の大学院でコンピュータを使ったクリエイティブワークのためのデザインCADの研究へ。大学院卒業後、富士ゼロックスの総合研究所でプロダクトデザインを研究し、誘われて資生堂宣伝部に転職。そこで香水瓶などの設計をするデザイナーのためのCADの研究開発をしながら、さまざまなデザイン制作もしました。

デザインのプロセスも、ソフトウェアの開発もわかっていないとできないことですね。

若林 たとえば瓶のデザイナーが「瓶の肩を張る」と言うイメージをシステムに反映させるために、香水瓶を何百本も切断して断面を調べたこともあります。私はプログラム開発の専門家ではないのでデザイナーのクリエイティブワークにとって使いやすいシステムは何かを考えそれをもとにした基本的なシステム設計をしたら、あとは専門家に任せていましたが。こんな形でスタートしたキャリアが色々な分野に広がったので、今の専門はあえて言えば「総合デザイン」です。

ワークショップをするようになったきっかけは?

若林 資生堂を辞めた後、岡山の大学で学生と一緒に倉敷という観光地をどう表現するか、発信するかというテーマで、町中を歩き回りながら考えたことです。もう一つはそのころ出会った人たちと教育分野でのアクティング・アウトという手法を活用したあらたなワークショップの試みに参加し、それで、ワークショップを自分の教育の中でも実践してみようと思ったんです。

水族館でのワークショップが多いですね。

若林 魚を見るのが好きなんです(笑)。最初は東京工科大学に勤務していた時の新江ノ島水族館。それ以来、葛西臨海水族園、すみだ水族館、京都水族館、沖縄美ら海水族館などとワークショップをしてきています。また、上野動物園や金沢動物園といった動物園でも。札幌では円山動物園ですね。動物のお面のペーパーモデルでは、子どもたちに好きな動物を観察してもらって、耳をつけるというような使い方もします。すると、たとえば草食動物と肉食動物で動物の顔の造りが違うことに気づき、それがなぜなのか、自分で考えてくいようになります。


「最近、ペーパーモデルの体系を構想しているのですが、ペーパーモデルには構造を表すもの、形態を表すもの、関係を表すもの、と3種類あると考えています」(若林)

水族館は学びをテーマにワークショップをするのにいい場所ですね。

若林 近年、集客のためにエンターテイメント性が求められがちですが、子どもたちの学びという視点からもっとワクワクすることができないかという水族館のニーズと一致したんでしょうね。たとえば3mものイルカの実物大の絵を、子どもたちと一緒に描くとか。もう、みんな絵具でべとべと(笑)。図鑑の情報を知るだけではなく、興味を持ったことを深めていく感覚を大事にしています。そうした参加者自身の気付きをサポートするために、ツールとしてペーパーモデルを使うようになりました。

ワークショップで大切にしていることは?

若林 「見て、気づいて、作って、確かめる。そしてそれを他の人に話す」という流れを、必ず埋め込んでいます。参加している子どもたちの「気持ちの変化」も研究の対象です。

それにしても、精巧なペーパーモデルですね。

若林 魚は機能と形態が不可分です。専門家と話し合いながら、かなり細部まで正確に作ります。東京にいた時は、東京海洋大学に出かけてそこの学生たちといっしょに魚の解剖を何度もさせてもらいました。デザイナーは色々な分野の専門家と仕事をする、偉大な素人だと思います。ある分野のプロから学び、ワクワクしながら仕事をし、また別の分野へ行く。そうしたさまざまな分野の経験ができるのも楽しいんですね。

先生はワクワクすることを大切にしていますが、どうしたらそうできますか?

若林 誰が言ったか忘れましたが、「体が動けば、頭が動く。頭が動けば、心が動く」という言葉があります。それがワクワクすることだと思っています。

デザイン学部 人間情報デザインコース 教授 若林 尚樹

金沢美術工芸大学産業デザイン学科を卒業後、筑波大学大学院芸術研究科にて芸術学修士を取得。
その後、富士ゼロックス総合研究所工業デザイン研究室、資生堂宣伝部での企業デザイナー、岡山県立大学デザイン学部助教授、東京工科大学メディア学部教授、筑波大学大学院での博士 (感性科学)取得、東京工科大学デザイン学部教授を経て、2017年より現職。

研究紹介一覧へ