札幌市立大学 SAPPORO CITY UNIVERSITY

研究紹介

地域と一緒にモノづくりをデザインする

話し手:横溝 賢
(デザイン学部 人間情報デザインコース 准教授)
聞き手:須之内 元洋
(デザイン学部 人間空間デザインコース 講師)

最初に、横溝先生のこれまでのキャリアと言いますか、辿ってきた道を教えてください。

横溝 私は大学では工業デザイン、いわゆるプロダクトデザインを学んだのですが、卒業後は広告代理店でグラフィックデザイナーをしていました。5年ほど働いた後、デザインと人と社会の関わりをもう一度見つめたいと思って、退職してイタリアへ行きました。メンフィスという産業におけるアートとデザインを探究する実験集団が好きで、そういう文化や気風を引き継いだ大学院研究機関ドムスアカデミーに飛び込んだのです。メンフィスは大量生産に合わせながらも、モノがどういう色・形・デザインであればいいかを実験していました。大学院では人びとの生き方を大事にした産業とデザイン、生活とデザインの関わりかたについて学びました。色々なプロジェクトにも参加できたのですが、経済学、素材の専門家など、他分野の人たちが丁寧に議論しながら1つのモノを作り上げていく。例えばお墓のデザインなら「人にとって死とは何か」の議論から始まる。「そもそも」から考える醍醐味を味わいましたね。

哲学があるんですね。

横溝 日本は縦割りが多いし、スケジュール優先のモノづくりが優勢です。でも、日本に帰ってきて、企業にイタリアのデザイン、多様性と哲学、意味を問うことの魅力などを伝えているうちに、自分独自のアプローチを残しておこうと学会に発表するようになり、やがて八戸工業大学で教えることになりました。

八戸とは何かご縁があったのですか?

横溝 何のつながりもありませんでした(笑)。地域のデザインがしたい!とアピールして応募したら、採用になったんです。採用されたのはよかったけど、縁もゆかりもない土地でよそ者として不安だった。でも行ってみたら、圧倒的に面白い。土地に根差したものがたくさんあるんです。遠野の河童伝説の源流も八戸にありました。地元の八幡馬という工芸品などをテーマに、フィールドワークやワークショップもしました。

地元の資源との出会いは? どうやって探すんですか?

横溝 面白いなと思ったら、話しかけます(笑)。八幡馬は諸説がありますが約700年前からある郷土玩具です。これが、ナタ1本で作るんです。今では大久保直次郎さんという方、ただ一人です。大久保さんに実演してもらうと、学生たちが凄く真剣に見るんですよ。1つ1つの所作、手わざがリアル。こうした経験をベースに、学生、市民と一緒に地域のモノづくりをデザインしました。

本学に赴任されてからは、コンブをテーマにした活動もされていますね。

横溝 これは様似町の拾いコンブです。海岸にコンブがびっしり、絨毯のように打ち上げられていて、それを拾うんですね。浜のお母さんに声をかけ、実際に作業もさせてもらいましたが、とても重いんです。そうやって漁師さんの話を聞き、コンブ製品のブランド開発、パッケージづくりなどをしています。


手にもっている昆布は厚岸の鬼昆布

まず地域に出てみる、コミュニケーションする。そこから始めることが大切なんですね。

横溝 はい。一次産業で働く人たちは、地球環境の悪化にも敏感に気付き、心配しています。厚岸の漁師さんも、「牡蠣はもう人の手がなくては育たない。コンブもそろそろ……」と言います。これまでの生産方法は、もう通用しないかもしれません。そうした危機感や歴史、文化、つまり生産者の方々の物語を、デザイナーは消費者に伝えることができます。「売れるモノづくり」だけではなく、そこをきちんと形にしていく必要があります。

それは「生産者と消費者の新しい関係」をデザインすることでもありますね。

横溝 札幌はその意味で、いい環境だと思います。生産の現場が近いですから。様似町では役場や町の人たちが、本学の学生に好意を持って接してくれます。来年度は、ゼミの合同合宿も様似町でする予定です。いわゆる「発注-引き受け」という関係ではなく、「一緒に作る」。CO-CREATIVEなデザインの魅力、素晴らしさが味わえます。

ありがとうございました。

デザイン学部 人間情報デザインコース 准教授 横溝 賢

ウェールズ大学ドムスアカデミー造形研究科アート&デザイン修士コース修了。
(株)広美 グラフィックデザイナー、Domus Academy Research & Consulting, Future Concept Lab, Design Continuum Italia, Cibic&Partners 外部デザイナー兼リサーチャー、Designyard Milan デザインディレクター、 (株)デザインヤード デザインディレクター、八戸工業大学 感性デザイン学部 創生デザイン学科 准教授などを経て、2019年より現職。

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